fly℃│第二話 なりゆきホームステイ
エイジ778年。
悟飯さんとビーデルさんがご結婚されていました。
「わあああああおめでとうございます!!」
幸せそうに微笑み合う悟飯さんとビーデルさん。オレンジスターハイスクール卒業後、結婚式をあげたそうです。
結婚式の写真見せてもらいましたがビーデルさんの花嫁姿美しすぎました。
ミスターサタンが号泣している姿や、食欲旺盛に食べまくる悟空さんとべジータさんの姿。界王神様の写真もありました。出席してくださったそうです。
バージンロードを歩くビーデルさんのヴェールを持つリングボーイとヴェールガールはなんと、悟天君とトランクス君とマーロンちゃん!悟天君はちょっと照れながら、トランクス君もいつものやんちゃぶりは身を潜めて緊張した面持ちで、マーロンちゃんは楽しそうに、ヴェールをそっと持ち上げて歩いている姿が写真に納められていました。
他、お洒落なドレスの女性陣、タキシードに身を包んだZ戦士の姿をきゃーきゃー黄色い悲鳴をあげて見ている私に、当時の様子をチチさんとビーデルさんが写真を指しながら話してくれます。
「キレイです!ビーデルさんとってもキレイな花嫁さんです!」
「なんだか、恥ずかしいわ」
「本当にいい式だっただ。おら、思い出しただけで涙がでるだよ」
頬を赤らめるビーデルさんと、穏やかな顔で目元を拭うチチさん。
「あれ、このウェディングドレスってチチさんのお母様の形見のウェディングドレスじゃありませんか?」
「!! その通りだ!どうして分かったんだべ?」
「ファンの常識です。受け継がれていく愛のストーリー素敵です」
「やんだー!おら恥ずかしいべ!」
頬を染めて恥じらうチチさんに背中を叩かれ、アルバムに顔を突っ込みました。
流石は宇宙最強の戦士のお嫁さん。攻撃力が違います。
「あら、もうこんな時間」
ビーデルさんが壁にかかった時計を見て声をあげました。椅子から立ち上がると、少し離れた席で私たちを見ていた悟飯さんに話しかけました。
「悟飯くん、プレゼントはどこにあるのかしら」
「もう飛行機の中に準備をしてあります。明日は身支度をするだけですぐに出発できますよ」
「そうだ、明日は早く出なきゃならねえからな。寝る前に着ていくドレス、もう一度考えるべ……悟空さ!」
チチさんの怒号につられて視線を追うと、こそこそと部屋を抜け出そうとしていた悟空さんの姿が見えました。
やべっ、と小さく呟いたのが私の位置からでも分かりました。チチさんが気がつかない筈はありません。
「悟空さ、明日着ていくスーツは決めただか?世界一のお金持ちのブルマさんのお誕生日パーティーにお呼ばれしてるんだべ!?」
つかつかと歩み寄り、悟空さんを自分と壁の間に追い込んで腕を組んで仁王立ち。自分が怒られている訳でもないのに身を縮めてしまうその迫力。
「親しき仲にも礼儀ありだべ!!どうせ悟空さのことだ、いつもと同じその胴着で行こうとしてるのはお見通しだ!」
チチさんの人差し指が刀のように突きつけられて、悟空さんはすまなそうに頬を掻きました。
「チチ、オラは明日は界王様のところで修行する約束してっから行けねえんだ……」
「まーた修行だか!?」
チチさんは呆れたようにため息混じりに呟き、悟空さんは助けを求めるように視線をさ迷わせます。私と視線が合った瞬間、何か閃いたように表情が明るくなりました。
「約束してたからさ、行かねえと!ほら、それにの事も聞いておかなきゃならないしさ!」
突然引き合いに出され、チチさんがこちらを見たので居住まいを正しました。
「それは確かにそうだべ……」
「なっ!オラの代わりにに行って貰えばいいじゃねえか!」
「えっ?」
「んだ!そうだな、ちゃんならきっとブルマさんも喜ぶだ!ビンゴ大会も悟空さの代わりにちゃんに出てもらてばいいべ!」
「あ、あの……?」
「それじゃ、オラは界王様の所に行くから!またな!」
パシュンッと空気を裂く音と共に悟空さんは姿を消していました。影も形もありません。知識があるとはいえ、それが瞬間移動だと気がつくのに私は数秒の時間を要しました。
ぽかんとして悟空さんが居た場所を眺める私の肩をチチさんが叩きます。
「さ、そうと決まれば早速準備だ!おらの若い頃のチャイナドレス、きっと似合うべ!」
チャイナドレス?準備?
混乱している私に悟飯さんが説明してくれます。
「明日はブルマさんの誕生日パーティーがあるんです。ブルマさんは、あ、説明しなくてもさんはブルマさんのこと知っていましたよね」
頷くと、悟飯さんはやっぱり変な感じだなぁと苦笑していました。そりゃそうですよね異世界とか信じられませんよね。
「その誕生日パーティー、よかったらさんも参加してもらえませんか?お父さんの代わりに」
なんですと。
「わ、私に悟空さんの代わりなんて勤まりませんよ!?それに飛び入り参加なんて迷惑になりませんか?」
「大丈夫ですよ、ブルマさんは気にしませんから。異世界の事もをみんなに聞いてみれば帰る方法が分かるかもしれません」
「しかしですね……」
確かに、このまま帰れないのはすごく困ります。楽しそうだけれど。こっちの世界とても楽しそうだけれど色々残してきたものも気がかりです。
まぁでもブルマさんには会いたい。もれなくべジータやトランクス君に会えるみんなってことはクリリンさんとかもおそらくいるピッコロさんにも会えるかもしれない行きたいですでも私の心臓もたない気がします。
「きっと、みんなも異世界のお話を聞きたがると思うわ」
「驚くだろうなぁ、僕たちの世界がお話になってるなんて!」
悟飯さんとビーデルさんは楽しそうに笑いあっていますが、はたしてそんなにうまく事が運ぶでしょうか。
自分達の事を見ず知らずの他人が詳しく知っているなんて、不快に思われそうです。不審に思われたり気持ち悪がられないか不安でたまりません。
「遠慮なんてしなくていいだ。さ、チャイナドレスを選ぶべ!時間がねえべ!」
「あっ、チチさん私そんなチャイナドレスなんて着れませんよ似合いませんよ!?」
背中を押されて奥の部屋に連れ込まれてしまい、悟飯夫婦との会話は強制的に終了しました。
部屋のドアが閉まる前に肩越しに悟飯さんを振り返ると、小さく手を振っているのがちらりと見えました。
孫家の人達は暖かく私の事を迎え入れてくれましたが、他のキャラクター達が私の言葉を素直に信じてくれるとはとても思えません。
鋭い眼孔の戦士達の顔を思い出し、鉛を落としたように急速に不安になっていきます。
上機嫌にチャイナドレスを選ぶチチさんとは対照的に、この先に待ち受けている展開に憂鬱になり青白くなる私の顔。
あのキャラクター達は私の事を納得してくれるんでしょうか……。
孫家にお世話になります。